ある土曜日の朝、JR西宮駅前にて。
スーツ姿じゃなく、ウィンドブレーカーとジャージに身を包んだ二人の男──専務と相談役。
「今日の目的地は、丹波篠山の“デカンショ”。昭和が生きとる場所や」
軽くうなずき合い、無言でペダルを踏み出す。ルート?そんなもん、体に叩き込んどる。
第一章:武庫川、宝塚、自走の儀
武庫川サイクリングロードを北上。
左手に住宅街、右手に河川敷。背中に重ねた昭和の影。
宝塚付近まで北上し、サイクリングロードを外れて、手塚治虫記念館、大劇場前を通過。



「夢ばっかり見とっても、腹はふくれん」
吐き捨てるように専務がつぶやく。
やがてJR宝塚駅。
慣れた手つきでチャチャッと輪行準備。
「山越え?バカ言うな。無茶して墓場行きたないわ」

第二章:新三田降臨、出撃の刻
輪行で新三田駅へ。

新三田駅に到着。静かな駅前で、再び愛車を組み立てる二人。
「ここからが本番や。覚悟はええか」
「いつでも地獄は見る覚悟できとる」
そう言うて、約12km先の「レストイン デカンショ」に向けて出発。

第三章:山の路、藩境、田舎の空気
まずは武庫川さくらの路線1号線。
桜の季節には間に合わんかった。来年はここで宴や。

幹線の176号線は危険地帯。トラックが横スレスレを通り過ぎる。
「こんなとこで事故ったら新聞の片隅や」
電車沿いの静かな道へ回避。


JR藍本駅でトイレ休憩。
「このトイレ、意外と綺麗やな」
そんな言葉も、田舎の空気に溶ける。

走るほどに、家も人も減っていく。
田畑に囲まれた細道で、かつての藩境の石柱に出会う。
「三田藩と篠山藩…時代が変わっても、境目はあるもんやな」

黙して前へ進む。ここは“丹波の森街道”。
JR草野駅を横目に、もうすぐ「あの店」や。

第四章:昭和レトロと、エビフライの約束
目の前に現れたのは、レストイン デカンショ。
看板のレトロ感、ただ事やない。
まだ開店前やったが、店の人が中で休ませてくれた。
「自転車で来るアホ、他におらんやろな」
「いや、これは旅や。命削って昭和を味わう修羅道や」

店内は完全なる昭和レトロな空間。
どこかしら懐かしいが、逆にオシャレな空間。




名物「エビフライ定食(1250円)」を即決し、開店前に先に注文しといた。デカンショランチは次回にお預けや。
開店までの時間に、「井戸水で淹れたコーヒー(450円)」で一服。
「キレる味やな。いまどきこの雑味、逆に泣けるわ」

そしてついに──
エビフライ定食、登場。
でかいエビ。パリッと揚がった衣。
横にちょこんと添えられた、黒枝豆。

「……勝ったな」
「いや、まだ道は続く」
(後編)に続く。
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