西宮、朝も早よから──
パンク修理したての愛車にまたがり、我ら兵庫県サイクル&ドリンク愛好会の専務は、静かに2号線を走り出す。
エンジンはないが、意志はある。
チェーンが回る音だけが、街のざわめきの中に切り込んでいく。
【一の章】西宮から灘・神戸臨港線跡へ──道は線路をなぞるように
2号線を東灘、そして灘へと抜ける道中は、かつての貨物の血脈・神戸臨港線が通っていた道。
今は鉄路も枕木も消えたが、その風情は今も生きてる。
かつてのアウトロー貨車たちの面影を感じつつ、コンクリの上を滑る。
錆びたガードレールが、黙って歴史を語っとるように見えたのは気のせいやろか──いや、ちゃうな。

【二の章】神戸臨港線跡からみなとのもり公園へ──静かなる祈りの場所へ
かつての災厄が牙を剥いた神戸の地。
その記憶と希望が交錯する「みなとのもり公園」。
ここはワシら、サドルの上の任侠者にとって、特別な場所や。

ペダルを止め、帽子を脱ぎ、黙って手を合わせた。
走るだけが粋やない、止まることもまた仁義なんや。

【三の章】みなとのもりから須磨海岸へ──潮風に誘われて
風が変わった。海の匂いが鼻をくすぐる。
小径自転車で走ると、体感する街の息吹がちがう。
神戸の街並みがだんだんと、海へと心を溶かしていく。

須磨に着いたら、まずは海を見ろ。
波の音を聞きながら一服、これが真の“休憩”や。
「今日もええ旅や」とつぶやく声が、風に紛れて聞こえた気がした。


【四の章】須磨から兵庫運河へ──静かなる水の道
人の気配が少なくなり、街のざわめきが遠のく。
兵庫運河──ここは、かつての物流の流れを静かに見守る水の道。
水面に浮かぶのは、かつての影か、未来の夢か。

運河沿いを走ると、胸の奥が静かに熱くなる。
まるで街の裏側を覗いてるような、不思議な感覚。
これが“兵庫裏道サイクリング”の醍醐味や。
【五の章】終着地・兵庫運河のほとりで一杯──締めはやっぱりこれやろ
さぁ、よう走った。
水面に映る西陽が、今日の終わりを告げとる。
ベンチに腰をおろし、クーラーバッグから缶ビールを取り出す。
プシュッという音が、合図や。
この瞬間のために走ったと言ってもええ。
焼き鳥、イカフライ、そして柿の種──
これが“兵庫県サイクル&ドリンク愛好会 締めの流儀”。

今日も無事故無トラブル。
近くの駅まで小径自転車を押して歩き、駅前で輪行袋にしまいながら、次の街へと思いを馳せる。
我ら、ペダルと盃を愛する街道の渡世人──またどこかで会おうや。

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