「いつか行ったる。」そう言い続けてきた相談役が、ついに念願の山崎蒸溜所へ潜入することになった。しかも今回は、なかなか抽選に当たらない有料見学ツアー。参加費は3,000円、最後にはウイスキーの飲み比べまで付いてくる。ところが当日はJRの人身事故と信号トラブルが重なり、まさかの時間との勝負に。果たして相談役は、無事に14時30分の集合時間へ間に合うのか。そして最後に待っていたのは、これまで飲んできたハイボールの概念をひっくり返す一杯だった。
抽選突破の切符を手に入れた相談役、いざ山崎蒸溜所へ


8月22日(土)。今夏一番とも思える猛烈な暑さの中、相談役は西宮の事務所を出発した。
この日の目的地は大阪府三島郡島本町にあるサントリー山崎蒸溜所。ウイスキー好きなら一度は名前を聞いたことがある、日本を代表するウイスキー蒸溜所である。
今回参加するのは、山崎蒸溜所の有料見学ツアー。参加費は3,000円。製造工程の見学だけではなく、最後にはウイスキーのテイスティングも待っている。
しかし、このツアー、そう簡単には参加できない。
抽選による申し込みで、なかなか当選しないことで知られる人気ツアーなのだ。
今回も相談役一人の力ではなく、他事務所の会長の力添えがあって、ようやく参加資格をゲット。
「これは絶対に行かなアカンやつや。」
そう意気込んでいた。
開始時刻は14時30分。
西宮の事務所を12時頃に出発すれば、普通に考えれば十分間に合う。JRを利用して山崎駅まで行き、そこから徒歩で向かう予定だった。
この時点では、まさか後ほど4,300円の追加出費を強いられるとは、相談役も知る由がない。
JR人身事故と信号トラブルのダブルパンチ。時間との死闘が始まる

余裕を持って出発したはずだった。
ところが、今日に限ってJRが荒れている。
人身事故に加えて信号トラブルまで発生し、ダイヤは大混乱。駅へ行ってみれば、電車が来ない。ようやく来た電車に乗り込んでも、途中で止まってしまい、そこからピクリとも動かない。
相談役「……なんで今日やねん。」
時計を見る。
刻々と14時30分が近づいてくる。
今回のツアーは予約制。しかも抽選を突破してようやく手に入れた参加資格だ。
これを交通トラブルで逃すわけにはいかない。
車内で待ち続ける相談役。
しかし、時間だけが容赦なく進んでいく。
なんとか14時頃、高槻駅までたどり着いたものの、ここから山崎駅へ向かう電車が来ない。



「これは……アカン。」
もはや普通にJRを待っている場合ではない。
山崎蒸溜所のツアー開始は14時30分。
残された時間はわずか。
ここで相談役は、苦渋の決断を下す。
「タクシーや。」
高槻駅からタクシーに乗り込み、山崎蒸溜所へ直行。
料金はなんと4,300円。
ツアー参加費3,000円を上回る追加出費である。
「4,300円……痛いな。」
しかし、3,000円を払って抽選まで突破したツアーを棒に振るわけにはいかない。
ここは金で時間を買うしかない。
まさに「時は金なり」ならぬ、「山崎は4,300円なり」。
そして14時35分頃、相談役は山崎蒸溜所へ到着した。




すでにツアーは始まっている。
だが、奇跡的に序盤で合流することができた。
受付で名札と水を受け取り、何食わぬ顔でツアーへ合流。



「間におうた……。」
ここからようやく、本来の目的である山崎蒸溜所見学が始まる。
極暑の仕込み、香り立つ蒸留、アルコールに包まれる熟成庫




ツアーでは、ウイスキーがどのように造られているのかを実際の設備を見ながら学んでいく。
まずは仕込み、いわゆる糖化の工程。
ここがとにかく暑い。
8月22日の猛烈な暑さも相まって、仕込みの部屋はまさに極暑。



「これ、見学というより修行やな。」
そう思うほどの暑さだった。
しかし、普段なかなか見ることのできないウイスキー造りの現場を間近で見られるだけに、興味は尽きない。
続いて蒸留の工程へ。
ここでは先ほどとは雰囲気が一変する。


室内には、アップルシナモンを思わせるような、甘くスパイシーな香りが漂っている。
実は蒸留所では、その日の天候や温度、湿度などによって感じられる香りも変化するという。
同じ場所でも訪れる日によって違った印象を受けるというのは、なんとも奥深い。
そして次は熟成、つまり貯蔵の工程。
ここへ入った瞬間、空気が変わる。




樽がずらりと並ぶ熟成庫は圧巻の光景だが、それ以上に印象的なのがアルコールの香り。



「ずっと鼻にアルコールを染み込ませた綿を当てられとるみたいや。」
それほど濃厚な香りが漂っている。
樽の中で長い年月を過ごし、少しずつ変化していくウイスキー。
普段グラスに注がれた状態でしか見ることのない「山崎」が、ここではまだ製品になる前の姿で眠っている。
工場見学というより、ウイスキーそのものの歴史を見ているような感覚になる。


山崎の名水から始まる本番。4種類の原酒をじっくり飲み比べ




製造工程の見学を終えると、ツアーはいよいよ後半戦へ。
山崎蒸溜所を語る上で欠かせないのが「山崎の名水」。
ウイスキー造りに使われる水を実際に見ながら、いよいよ試飲会場へ向かう。
ここで相談役が目にしたのは、想像していたよりもかなりおしゃれな空間。






一人ひとりの席には、4種類のテイスティング用ウイスキーが準備されている。
順番に解説を聞きながら試飲していくスタイルだ。
原酒はストレートで味わってもいい。
しかし、より香りを感じやすい飲み方として教えてもらったのが、山崎の名水で1対1に割る方法。



「これは勉強になるな。」
普段は何となく飲んでいるウイスキーも、こうして香りや味わいを意識しながら飲むと、まったく違った世界が見えてくる。
そして3番目に試飲したのが、ミズナラ樽原酒。
これが実に印象的だった。
「山崎」の元となるお酒ということで、口に含むと非常になめらか。
どこか甘みを感じるような味わいもあり、普段飲むウイスキーとはまた違った魅力がある。
原酒の段階でこれだけ個性があるのだから、樽の種類や熟成によって最終的な味わいが大きく変化するのも納得だ。



「これを飲んでから完成品を飲んだら、また違って感じるやろな。」
そう思いながら、じっくり味わう。
そして、いよいよ4番目。
完成された「山崎」のテイスティングである。
さすがに完成品。
香り、口当たり、余韻。
全体がバランスよくまとまっている。
ここまで工程を見学してから飲むと、単なる「ウイスキー」という一言では片付けられない奥深さを感じる。


最後の一杯は山崎ハイボール。相談役、完全に心を持っていかれる










そして最後に待っていたのが、山崎のハイボール。
ここからが今回のツアーのクライマックスである。
まず、ハイボール用のグラスに山崎の名水で作った氷を入れる。
そこへウイスキーを注ぎ、マドラーで10回ほどかき混ぜる。
そして、山崎の名水で作った炭酸をゆっくり注ぐ。
最後にマドラーを使って、下から上へ一度だけ混ぜる。
これで完成。
「なるほど。こうやって作るんか。」
普段、居酒屋で何気なく注文しているハイボールとは、作り方からして違う。
そして一口。



「……なんやこれ。」
思わず声が出る。
もちろん居酒屋のハイボールと比較すること自体が失礼なのかもしれない。
しかし、それでも言いたくなる。
めちゃくちゃ美味い。
香りが立ち、口当たりが柔らかく、それでいてウイスキーの存在感もしっかり残っている。
「レベルが違い過ぎるやろ……。」
相談役、完全に心を持っていかれた。
これまで飲んできたハイボールとは、別物と言ってもいいほどの衝撃。
ウイスキーを飲むというより、「山崎」という酒の完成形を体験しているような感覚だった。
今回のツアーでは、製造工程を見学し、原酒を飲み、完成品を味わい、最後にハイボールまで楽しむ。
単なる工場見学ではない。
酒好きにとっては、かなり濃密な90分である。
90分の死闘終了。一人一本限定の「山崎」を確保して店じまい






約90分のツアーを終え、いよいよ店じまいの時間。
最後にショップへ立ち寄る。
せっかくここまで来たのだから、何か記念に持って帰りたい。
そこで相談役が購入したのが、お土産用の小さい「山崎」、お値段3,980円。
ただし、一人1本までという購入制限がある。



「一本だけか……。」
とはいえ、抽選を突破し、JRの大混乱をくぐり抜け、4,300円のタクシー代まで払って、ようやく手にした山崎蒸溜所である。
その一本には、今日一日の苦労が詰まっている。
山崎蒸溜所の有料見学ツアーは、ウイスキー好きならもちろん、普段それほどウイスキーを飲まない人でも楽しめる内容だった。
特に、実際の仕込み・蒸留・熟成の現場を見てからテイスティングできることで、グラスの中の一杯がどのように生まれているのかを体感できる。
「これは来てよかったな。」
相談役も大満足。
帰りは阪急電鉄の大山崎駅から帰宅することにした。
そして駅へ向かいながら、ふと思う。
「……こんなことなら、行きも阪急で来とけばよかったな。」
まさに最後まで相談役らしいオチである。


締め
抽選突破、JRの人身事故と信号トラブル、まさかの4,300円タクシー、そして山崎蒸溜所での約90分の濃密な見学と試飲。振り返れば、かなり波乱に満ちた一日だった。それでも最後に飲んだ山崎ハイボールの一杯ですべてが報われた気がする。金は多少飛んだ。しかし、経験と記憶は残った。これぞまさに、大人の祭り事。相談役、念願の山崎蒸溜所へのシノギは、見事に筋を通したのである。
<山崎蒸溜所>









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