大阪港から始まる大遠征。オレンジフェリーで四国、愛媛へ
兵庫県サイクル&ドリンク愛好会にとって、今回の巡航は過去最大級の案件である。
目的地はサイクリストの聖地として知られるしまなみ海道。会長、専務、相談役の三名が揃い踏みし、愛媛県今治市から広島県尾道市までをミニベロで走り抜ける二日間の遠征を計画した。
集合場所は大阪港フェリーターミナル。乗船開始時刻より少し早い20時前に全員が集結した。もちろん、ただ船を待つだけでは面白くない。
まずは恒例行事である明石亭「フェリーターミナル店」を開店する。旅の安全と無事の帰還を祈願しながら乾杯。遠征前のこの時間は何度経験しても楽しいものである。
会長は翌日のルートを確認し、専務は補給計画を再確認、相談役は天気予報とにらめっこ。どうやら雨は避けられそうにないが、ここまで来て怖気づくようなメンバーではない。


22時発のオレンジフェリーへ乗り込むと、その豪華さに驚かされた。ロビーは明るく広々としており、まるでホテルのエントランスのような雰囲気である。
今回利用したのはデラックスシングル。料金は10,260円だったが、完全個室でベッドも広く、テレビや机も完備されている。正直なところ、一般的なビジネスホテルより快適だった。


荷物を部屋に置いた後はレストランへ向かう。会長は唐揚げ定食、専務は鯛あら炊き、そして相談役は初乗船ということで名物の鯛めし(1700円)を注文した。運ばれてきた鯛めしは思った以上に上品なサイズで、「これで足りるんか?」と少し不安になったが、一口食べれば評価は一変する。
ブランド鯛らしい濃厚な旨味があり、気付けば全員あっという間に完食していた。
食後は大浴場で汗を流し、翌日の決戦に備えて早々と就寝。船の揺れも心地よく、気付けば朝を迎えていた。


雨の東予港到着。霧の来島海峡大橋へ向かう
翌朝6時、オレンジフェリーは定刻通り愛媛県の東予港へ到着した。下船後は連絡バスでJR予讃線の壬生川駅へ移動し、そこから輪行で波止浜駅を目指す。ここから先はいよいよ自転車旅の本番である。



ところが波止浜駅へ到着すると空模様は最悪だった。雨である。しかも止む気配がない。駅舎で待機しながら天気予報を確認するが状況は変わらず、一時間ほど様子を見ることになった。
会長「待ってても始まらん」
会長が静かに言った一言で出発が決定。目指すはしまなみ海道今治側の玄関口、サンライズ糸山である。


サンライズ糸山に到着すると、本来なら壮大な姿を見せるはずの来島海峡大橋は霧に包まれていた。橋全体が霞んで見え、瀬戸内海の景色もほとんど見えない。それでも初しまなみ海道の相談役は少し興奮気味だった。実際に自分の足でここへ来たという事実だけで十分価値がある。




ただし、しまなみ海道はスタート直後から容赦がない。橋へ上がるための坂道がいきなり始まるのである。相談役は早速洗礼を受けることになった。
しまなみ海道は平坦なサイクリングロードというイメージを持たれがちだが、実際には橋へ上がるたびに坂を登り、島へ降りるたびに坂を下る。
その繰り返しだ。脚力に自信のない方は、レンタサイクルなら電動クロスバイクを選ぶことを本気でおすすめしたい。


霧に包まれた来島海峡大橋を渡りながら、「晴れていたらどれだけ綺麗だっただろう」と思わずにはいられなかった。しかし、こういう天候も後から振り返れば旅の思い出になる。会長が「これも風情やな」と笑ったのが印象的だった。


大島最大の難関、宮窪峠を越える
来島海峡大橋を渡り終えると最初の島である大島へ上陸する。西側の海沿いルートは交通量も少なく、瀬戸内らしい穏やかな景色が続いていた。途中のよしうみバラ公園で小休止を取り、補給とトイレ休憩を済ませる。ここまでは順調だったが、この先にはしまなみ海道屈指の難所が待ち構えている。


それが317号線にある宮窪峠である。
距離は約1kmほどだが、勾配が続くためミニベロにはなかなか厳しい。ロードバイクなら軽快に登れるかもしれないが、ミニベロやクロスバイクでは話が違う。会長は一定のペースで登り続け、専務も黙々とペダルを回す。相談役も必死で食らいつくが、脚には確実にダメージが蓄積していく。


それでも登り切った時の達成感は格別だった。峠を越えた先には下り坂が待っており、一気に大島東側の海岸線へ抜けることができる。すると前方に巨大な橋が見えてきた。伯方・大島大橋である。
雨は止み、空にはまだ雲が残っているものの、徐々に視界が開け始めていた。橋の下から見上げる巨大な構造物と瀬戸内海に浮かぶ島々の景色は圧巻の一言。ここまでの苦労を忘れさせてくれるほどの絶景だった。


伯方島の絶景とサイクリストの聖地へ
伯方・大島大橋を渡ると伯方島に到着する。立ち寄ったのは「道の駅 伯方S・Cパーク マリンオアシスはかた」。目の前には伯方ビーチが広がり、砂浜と瀬戸内海を眺めながら昼食を取ることができる。
コンビニで買った弁当を広げ、本当ならビールといきたいところだが、まだ巡航は続くためノンアルコールで我慢。それでも景色の良い場所で食べる弁当は格別だった。






初しまなみ海道の相談役は当然のように伯方の塩ソフトを購入。ほんのり効いた塩味が疲れた身体に染み渡り、思わず「これはもう一個いけるな」と呟いていた。




休憩後は大三島大橋を渡り、大三島へ上陸する。橋の上から見える瀬戸内海は徐々に青さを取り戻し始めており、天候も回復傾向だった。
そして到着したのが道の駅多々羅しまなみ公園。ここにはサイクリストの聖地記念碑が設置されている。
もちろん兵庫県サイクル&ドリンク愛好会も愛車三台を並べて記念撮影を実施。会長のTern Verge P10、専務のTern D9、相談役のTern D9。ここまで来た達成感は大きい。しかし旅はまだ半分。会長は記念碑を見ながら静かに言った。









「ここで満足したらあかん。野望はまだまだ無限や。」
その言葉を合図に、三人は再びペダルを踏み込むのであった。
多々羅大橋を越え、広島県へ突入
サイクリストの聖地記念碑で愛車三台を並べて記念撮影を終えた我々は、再び巡航を開始した。次なる目的地は多々羅大橋。しまなみ海道を代表する橋のひとつであり、その優雅な姿は遠くから見ても圧倒的な存在感を放っている。
橋へ向かう坂を登りながら振り返ると、先ほどまでいた大三島の景色が広がる。朝から続いていた曇り空も徐々に回復し始め、瀬戸内海らしい穏やかな青色が顔を覗かせていた。やはりしまなみ海道は晴れ間が見えてこそ本領を発揮する。
多々羅大橋の中央部には愛媛県と広島県の県境がある。しまなみ海道を走るサイクリストなら誰もが立ち寄る定番スポットであり、当然我々も自転車を停めて記念撮影を行った。
外国人サイクリスト達は特に気にする様子もなく通り過ぎていくが、日本人にとっては県境を越えるという行為にどこか特別な感覚がある。




橋を下り始めた頃、少し気になる集団に遭遇した。クロスバイクに乗った大学生らしきグループである。橋の下り坂を利用してスピード勝負をしているのか、かなり危険な追い抜きを繰り返していた。
対向車線側にもサイクリストがいるにも関わらず無理なライン取りをしており、見ているこちらがヒヤヒヤするほどだった。


ところが橋を下り切り、生口島の平坦区間へ入ると状況が変わる。会長のTern Verge P10と専務のTern D9が本領を発揮し始めたのである。
本格的なスポーツミニベロは決して遅くない。巡航性能は非常に高く、平坦路では驚くほどよく走る。気付けば先ほどの大学生グループを次々と追い抜いていた。
会長は笑いながら言った。



「橋の下りで無茶するより、下った先の景色を楽しむ余裕を持たんとあかん。」
速さだけがサイクリングではない。しまなみ海道の魅力は、その景色と空気を楽しむことにあるのだろう。
瀬戸田港から三原へ。夜の明石亭三原桟橋前店
生口島では瀬戸田サンセットビーチを横目に見ながら巡航を続けた。海沿いの道は走りやすく、疲れた脚にも優しい。今回の遠征は天候が不安定だったこともあり、無理をせず瀬戸田港から三原へ渡って一泊する計画を立てていた。
瀬戸田港の近くには、昔ながらの街並みが残るしおまち商店街がある。出港まで少し時間があったため、自転車でゆっくり散策することにした。
細い路地や古い商店が並ぶ風景はどこか懐かしく、観光地でありながら生活感も感じられる。中でも印象的だったのが黄色い「幸せのレモンポスト」。さすがレモンの島と呼ばれるだけのことはある。




瀬戸田港から三原港までは船で約25分。大人920円、自転車は120円追加となる。輪行袋へ入れても追加料金は必要とのことだったので、そのまま積み込むのが一番楽だった。短い船旅を終えると、あっという間に三原へ到着する。








宿泊先はホテルリブマックスBUDGET三原駅前。一泊4,000円弱という驚きの価格だったが、寝るだけなら十分な設備が整っていた。
禁煙の部屋はすぐに埋まるようなので、喫煙しない人は、予定が決まっていれば早めに予約するのが無難だ。
シャワーで汗を流した後は、広島遠征の締めくくりとしてお好み焼き店「つぼみ」へ向かう。
注文したのは「びんご焼スペシャル」「三原焼スペシャル」、そして焼きそば。最初は少し物足りないかと思ったが、実際に運ばれてくると予想以上のボリュームだった。三人でシェアして丁度良い量であり、一人一枚頼んでいたら完全に補給過多になるところだった。






食後は恒例の明石亭「三原桟橋前店」を開店。本日の巡航を振り返りながら一杯やる時間は格別である。潮風を感じながら缶ビールを傾ける専務がぽつりと呟いた。



「夜風が実に気持ちいいな。」
その言葉が、この日の全てを表しているように思えた。


はっさく大福を目指し、再びしまなみ海道へ
翌朝は8時35分発の船で再び瀬戸田へ戻る。こちらも券売機で切符を買い、乗船時に切符を渡すスタイルだ。昨日とは別のタイプの船だったが、自転車は8台ほど余裕で積めそうな感じであった。






まず向かったのは前日から気になっていた岡哲商店。名物コロッケを購入し、軽い朝食代わりにいただく。揚げたてで実に美味い。さらにレモンオブジェの前で記念撮影を済ませ、再び尾道を目指して巡航を開始した。




生口橋を渡り因島へ入る。この島での目的は、はっさく発祥の地として有名な「はっさく屋」である。しかし、その前にはなかなかの激坂が待っていた。ミニベロで登るにはそれなりの気合いが必要だが、ここを越えなければ名物には辿り着けない。




何とか坂を登り切り、念願のはっさく大福を購入。これが想像以上に美味かった。はっさくの爽やかな酸味と餅の甘さが絶妙に調和しており、疲れた身体へ一気にエネルギーを補給してくれる。






さらに少し進むと、因島大橋へのショートカットルートが現れる。長い階段を自転車ごと担ぎ上げることで橋の入口近くまで一気に行けるのだ。
今回は担ぎ作戦を選択したが、これもなかなかの重労働だった。坂を登るか、担ぐか。その判断は各自の脚力と相談である。




尾道到達。そして無事帰還
最後の橋である因島大橋を渡り終えると、いよいよ最後の島である向島へ上陸する。
ここで立ち寄ったのが後藤鉱泉所。昭和の雰囲気が色濃く残る人気店であり、名物の怪獣サイダーをいただいた。愛想の良い店員さんとの会話も楽しく、旅の途中で立ち寄るには最高のスポットだった。






その後、ついに尾道渡船の渡船場へ到着。今治側から走り続けてきたしまなみ海道も、いよいよ終着点である。
渡し船に自転車ごと乗り込み、わずか110円で尾道へ渡る。数分の船旅だが、この最後の渡船が実に尾道らしくて良い。




尾道へ上陸した後は街中を軽くポタリングし、尾道ラーメンの穴場として評判の村上商店へ向かった。
観光客よりも地元のお客さんが多い印象で、まさに知る人ぞ知る名店といった雰囲気だ。背脂が浮いた醤油スープと細麺の組み合わせは王道そのもの。メンバー全員がサイズ大を注文したが、あっという間に完食してしまった。










そして最後は明石亭「尾道一号店」、続けて「尾道二号店」を開店。しまなみ海道完走を祝して乾杯である。雨に始まり、橋を渡り、島を巡り、峠を越え、美味い飯と酒を楽しみながら走り抜けた二日間。兵庫県サイクル&ドリンク愛好会らしい、実に濃密な遠征となった。




帰路はJR尾道駅から輪行し、福山駅へ移動。新幹線さくらで岡山駅へ向かい、さらにひかりへ乗り換えて西明石駅へ。フェリーで8時間かけて走った距離を、新幹線はあっという間に駆け抜けていく。西明石駅から在来線へ乗り換え、無事事務所へ帰還した。








会長が最後に一言。



「ええ遠征やったな。また行こか。」
その言葉に全員が頷いた。しまなみ海道は確かに素晴らしかった。しかし何より良かったのは、気の合う仲間と同じ景色を見て、同じ飯を食い、同じ時間を過ごせたことだったのかもしれない。
サンライズ糸山(しまなみモニュメント)
〒794-0001 愛媛県今治市砂場町2丁目8−8
よしうみバラ公園
〒794-2103 愛媛県今治市吉海町福田1290
宮窪峠
〒794-2104 愛媛県今治市吉海町仁江E76
道の駅 伯方S・Cパーク マリンオアシスはかた
〒794-2302 愛媛県今治市伯方町叶浦1668−1
サイクリストの聖地 記念碑
〒794-1402 愛媛県今治市上浦町井口9180
つぼみ
〒723-0004 広島県三原市館町1丁目2−10
はっさく屋
〒722-2101 広島県尾道市因島大浜町246−1
村上商店
〒722-0043 広島県尾道市東久保町14−10











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