朝一番、愛好会のLINEが鳴った。送られてきたのはたった一枚の写真。JR米原駅のホーム、そして静かに佇む一台のミニベロ。「会長……もう乗り込んどるやないか。」専務も相談役も寝耳に水。事前の招集もなければ盃も交わしていない。完全なる単独行動。
しかし写真に写る荷物は小さいながらも泊まり装備。つまり今回のシノギは一日仕事では終わらないということだ。
滋賀県東部から琵琶湖沿いを流し、城下町を見極め、夜は地酒で盃を交わす。誰にも邪魔されない、一匹狼の巡航劇が静かに幕を開けた。
米原へ単独潜入。まずは長浜の縄張りを見定める

米原駅に降り立った会長は、駅前で手際よくミニベロを組み立てる。慣れたもので三分とかからない。「仕事は段取り八分。」これは一家でもポタリングでも同じことだ。駅前の様子を軽く流したあと、狙いを定めたのは長浜方面。交通量も落ち着いており、巡航速度を保ったまま快適に走れる。
ほどなくして長浜城が姿を現す。秀吉ゆかりの城として知られるこの場所は、琵琶湖を背に堂々と構え、まるで今でもこの土地を見張り続けている親分のような貫禄がある。
城をあとにし、黒壁スクエアへ足を踏み入れると空気は一変。古い町家を活かした店舗やガラス工房、洒落た喫茶店が並び、多くの観光客で賑わっていた。


会長「派手に騒ぐ奴ほど長居はできん。」
会長はそんな空気を知っているかのように、静かに街を流す。路地へ一本入り、また一本抜ける。ミニベロだからこそできる細かな立ち回りだ。城下町を歩いていると、どこか昭和の匂いも残っており、肩肘張らずに楽しめる。敵も味方もいない。ただ景色だけが今日の相棒だった。


琵琶湖東岸、最高の巡航路は一家公認レベルだった


長浜をあとにすると、会長は琵琶湖東岸を南へ向けて流し始める。ここからが今回の本番だ。湖岸道路へ出た瞬間、視界いっぱいに広がる琵琶湖。風は穏やか、道は広い。しかもアップダウンはほとんどない。



「こりゃええシノギ場や。」
思わず独り言が漏れるほど走りやすい。一定のリズムでペダルを回し続けられるため、脚にも余計な負担がかからない。ロードバイクが気持ち良さそうに抜いていく一方、ミニベロは景色を拾いながらゆっくり進む。それでいい。速さを競う旅じゃない。


湖岸にはベンチや休憩スポットも多く、時折自転車を止めて湖面を眺める。波の音だけが響く時間は、まるで組の会合前の静けさにも似ている。不思議と心が落ち着くのだ。
そのまま彦根市へ到着。彦根城のお膝元らしく町並みは整い、駅前も非常に落ち着いている。本日の宿はABホテル彦根。駅から近く、輪行民にはありがたい立地だ。





「今日の仕事はここまで。」
親分は静かに暖簾をくぐるようにホテルへ入り、ミニベロにも一晩の休息を与えた。
夜の盃。ふなずしという名の玄人のシノギ




夜になっても繁華街へ繰り出すことはない。今日の酒場はホテルの一室。それもまた会長流である。
机の上へ並べられた酒の肴。その中心に鎮座するのが滋賀県名物・びわ湖産のふなずしだった。



「今日はいよいよ本丸や。」
初対面の相手だけに多少の緊張はあった。しかし一口運ぶと酸味の奥から深い旨味が押し寄せる。クセは強い。それでも酒を流し込めば景色が変わる。



「これは危険や…。酒が止まらん。」
まさに酒飲みを落とすために存在するような一品だった。
窓の外には彦根の夜景。部屋には静かなテレビの音。そしてテーブルには地酒とふなずし。
誰にも気を遣わず、自分だけの時間を楽しむ。
派手な宴会も悪くない。しかし、一人静かに盃を重ねる夜には、それ以上の贅沢がある。
今回のシノギも順調。明日はいよいよ南下作戦だ。
ビワコマイアミランド経由、野洲まで無事に縄張り制圧




翌朝、会長はまだ人の少ない時間帯にホテルを出発。再び琵琶湖東岸を南へ向かう。
目指すはJR野洲駅。
途中にはビワコマイアミランドを経由する人気ルートが続く。この区間はビワイチでも高い人気を誇るだけあり、道路整備は見事の一言。路面はきれいでアップダウンも少なく、景色まで申し分ない。



「これなら若い衆を連れて来ても安心や。」
思わず愛好会メンバーの顔が浮かぶ。
長浜から彦根、さらに守山・野洲方面へ続く湖岸ルートは、初心者でも安心して走れる最高のコースだ。もちろんビワイチ一周も魅力だが、無理をせず美味しいところだけ味わうのも立派な遊び方。


やがてJR野洲駅へ到着。
輪行袋へ相棒を収め、ホームへ立つ。
今回も大きなトラブルなし。誰とも争わず、誰にも追われず。
ただ景色を眺め、美味い酒を飲み、美味い空気を吸っただけ。
それだけなのに妙な達成感がある。
一家に戻れば、きっと専務がこう言うだろう。



「親分、今度は黙って行ったらあきませんで。」
そして次のシノギは三人揃って始まるのである。
おわりに
滋賀県といえばビワイチ完走に目が向きがちだが、米原・長浜・彦根・野洲を結ぶ琵琶湖東岸だけでも十分すぎるほど濃い時間を過ごせる。歴史ある城下町、走りやすい湖岸道路、地元ならではのグルメ、そして夜にじっくり味わう地酒。距離を競う必要はない。自分の流儀で走り、自分のペースで盃を重ねる。それこそが兵庫県サイクル&ドリンク愛好会のシノギ。さて次は、誰がどこの縄張りへ殴り込みをかけるのだろうか。











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